はじめに
近年、非常用放送設備は消防法に定められた火災放送の目的だけでなく、業務放送としての機能を複数の建物を結ぶ多棟放送や、緊急地震速報への対応など、多様な展開が図られています。
当社では、自動火災報知装置と連動した非常・業務用放送設備(インテリジェントPA)のメーカーとして、長年に亘り、ビルや建物に関わる人々の「安心・安全」を見守ってまいりました。
「災害から人命を守る」・・・その想いを込めて、最新の放送設備についてご紹介してまいります。
本コンテンツでは、消防法の目的と役割、および近年での消防法改正について解説すると共に、いつもの設備が非常時にも確実に稼働する『フェーズフリー』な施設を支える、非常・業務用放送設備を活用した各種システムを紹介します。
放送設備を扱う設備設計・管理者の皆さまのお役に立てば幸いです。
消防法とは?
―消防法の目的と役割―
消防法は昭和23年に制定された法律で、その目的は『火災を予防し、警戒し及び鎮圧し、国民の生命、身体及び財産を火災から保護するとともに、
火災又は地震等の災害による被害を軽減するほか、災害等による傷病者の搬送を適切に行い、もつて安寧秩序を保持し、社会公共の福祉の増進
に資することを目的とする。』とされています(法第1条)。
火災は財産や人命に関わる恐ろしい災害であり、建物の規模、形態、用途、または燃焼物の種類や気象条件等により異なります。過去の火災事例等
を分析し、起こりうる被害を想定し、それらを予防することを目的として消防関連法令は、年々整備されてきました。
消防法と放送設備
―防火対象物と放送設備の設置義務―
消防法では、防火対象物を用途別に分類し、用途・規模に応じて「消防の用に供する設備」の設置と定期点検が義務付けられています。
消防の用に供する設備は、消防法施行令第7条で「消火設備」「警報設備」「避難設備」に分類され、音で非常を知らせる装置として「非常警報器具」と「非常警報設備」があります。
非常警報設備には「放送設備」「非常ベル」「自動式サイレン」があり、放送設備は非常警報設備のひとつと位置付けられています。
放送設備は、出火階情報を含む音声警報メッセージを、自動的に放送させる必要があり、自動火災報知設備が設置される場合には、連動させなければなりません。
出火とともにいち早く避難誘導できる放送設備は、煙や混乱から尊い人命を救うための『必需設備』です。
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非常用放送設備
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非常用放送設備
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非常用メガホン
1音声警報への対応
―サイレン警報から音声警報へ―
平成6年に施行された、法改正の要点は以下の通りです。
●非常時の警報が「サイレン警報」から「シグナル音と音声警報」に変わりました。
●非常用放送設備は、自動火災報知設備などからの信号により起動、階情報を含む発報放送と火災放送または非火災(手動)放送の自動音声警報放送を行います。設置環境の変化と大きくなった役割に応える先進の非常用放送設備として、非常時のより的確な情報伝達と避難誘導ができるようになりました。
放送装置は音声メッセージを内蔵し、下記のような自動音声警報放送に対応するようになりました。
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発報放送
第1シグナル(パポ、パポ、パポ)+メッセージ
「ただいま○階の火災感知器が作動しました。係員が確認しておりますので、次の放送にご注意ください。」(女声)を2回繰返し…約30秒 -
火災放送
第1シグナル(パポ、パポ、パポ)+メッセージ
「火事です、火事です。○階で火災が発生しました。落ち着いて避難してください。」(男声)を2回繰返し+第2シグナル(フィッフィッフィッ)…約38秒 -
非火災放送
第1シグナル(パポ、パポ、パポ)+メッセージ
「さきほどの火災感知器の作動は、確認の結果、異常がありませんでした。ご安心ください。」(女声)を2回繰返し…約28秒
2緊急地震速報への対応
平成21年には、火災だけでなく地震動予報(緊急地震速報)への対応も基準が明示されました。消防
法施行規則等の一部を改正する省令(平成21年総務省令第93号)、および非常警報設備の基準の
一部を改正する件(平成21年消防庁告示第22号)により改正されました。
『非常警報設備の基準』より抜粋
地震動予報等に係る放送を行う機能を有するものにあっては、地震動予報等に係る放送を行っている間に、起動装置若しくは操作部を操作した場合又は自動火災報知設備等から起動のための信号を受信した場合には、地震動予報等に係る放送が終了した後、直ちに、かつ、自動的に非常警報の放送を行うものであること。
従来、緊急地震速報は業務放送の扱いでしたが、法改正により非常放送より優先して放送を行うことが可能となりました。これにより、建物の多くの人々に、身の安全確保を伝えることができます。
緊急地震速報を優先させる条件
放送設備に内蔵された固定メッセージを使う場合に限り、緊急地震速報を非常放送よりも優先して放送でできます。また、停電時に非常放送用のバッテリーを使用できます。「予知地震規模」、「猶予カウントダウン」、「キャンセル報」を放送したい場合は、従来どおり業務放送扱い(非常放送が優先)になります。
消防法施行令改正への対応
火災の際に遮断しなければならない非常警報以外の放送から、地震動予知報等に係るもので、これに要する時間が短時間であり、かつ火災の発生を有効に報知することを妨げないものを除く。
地震動予知報等に係る放送を行う機能を有するものにあっては、地震動予知等に係る放送を行っている間に、起動装置若しくは操作部を操作した場合、 又は自動火災報知設備等から起動のための信号を受信した場合は、地震動予知報に係る放送が終了した後、直ちに、かつ自動的に非常警報の放送を行うもの。
上記の改正に伴い、一般社団法人 電子情報技術産業協会(JEITA)社会システム事業委員会 非常用放送設備専門委員会により平成23年4月に「緊急地震速報に対応した非常用放送設備に関するガイド ライン(TTR-4701)」を制定。
ここまで、「警報設備」のうち「放送設備」を取り巻く消防法施行令改正について紹介してきました。近年の甚大な自然災害発生や事故など市場環境の変化に伴い、「警報設備」だけでなく「消火設備」や「避難設備」についても、今後も法改正の動きを注視していかなくてはなりません。
直近の令和5年4月1日における消防施行令法の一部改正では、地下駐車場などで使用される全域放出方式の二酸化炭素を消火剤とする不活性ガス消火設備(二酸化炭素消火設備)に係る死亡事故が相次いで発生したことを踏まえ、事故の再発防止のため、二酸化炭素消火設備に係る技術上の基準等について見直すほか、消防用設備等(特殊消防用設備等)設置届出書及び工事整備対象設備等着工届出書に添付する書類について合理化されました。これらは特に、消防設備士の方は既に周知されている内容です。
このように、「消火設備」への規定や対象物の区域の追加・変更など、新たな消火設備技術を取り巻く消防関連法規は今後も改正されるものと考えられます。
大規模施設と非常放送設備
ここまでは、消防法改正にまつわる放送設備の対応について解説してきましたが、一方で市場環境の 変化への対応も求められています。国内人口減による労働力不足により施設運営の効率化が加速しています。自治体庁舎、大学、工場・プラント、物流・倉庫、郊外型商業施設などでは、機能や施設の集約 化が進み、大規模・広域に対応した放送設備が求められています。
こうしたニーズに、放送に加え各種製品やソフトウェアを活用した放送システムをご提案します。
1大規模施設の多棟放送をIPネットワークで支える
当社のIPオーディオユニット「PN-AP200」は、ネットワークで音声信号と制御信号を送受し、接続された放送装置の起動・拡声ができます。また、マルチリモートマイクロホン「PA-C620」にも対応し、、放送先をボタンに割り付け可能。多棟システムの構築や放送エリアの変更などに柔軟に対応できます。
管理棟から離れた建物やエリア(フロア)ごとに、個別または一斉に放送を実現する『IPオーディオユニット』。
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特長1
ネットワーク接続で省線化を実現
●音声信号と制御信号をネットワークで長距離伝送できます。
●IPオーディオ間はLANケーブルのみで接続。
●最大100台のIPオーディオユニットを接続できるので、多棟システムなどの大規模施設にも対応可能です。
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特長2
使いやすい放送先設定ソフト
●放送元・放送先をマトリクスで設定可能です。
●視認性・操作性に優れた画面構成。
●テナント入れ替えなどにも柔軟に対応できます。
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特長3
リモートマイクロホンの接続に対応
●接点・リレーでの制御に加え、マルチリモートマイクロホン「PA-C620」とのシリアル通信による制御が可能。
●業務リモコン(PA-C50シリーズ/PA-C620)用のDC24V電源供給端子を搭載。
※ACアダプタでの動作時に使用可。
運用イメージ
2 無線機をマイク代わりにして避難誘導放送を行う
災害時の避難経路指示や不審者の侵入時、学校や施設などで一斉緊急放送を行いたいが放送設備 が遠い。このようなケースは携帯用無線機から放送が可能な『放送連動無線システム』が最適です。 放送連動無線システムは、従来の放送システムに加え、屋外などの離れた場所でも無線機から直接、 放送設備を起動し無線機をマイクロホン代わりにして音声放送を行えます。
事故や災害時には、職員や警備員の無線機から一斉に放送(音声)を実現する『放送連動無線システム』。
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特長1
平常時は無線機を業務連絡に使用
●無線機間の通信ができるため、普段の連絡用として使用できます。
●校外学習などの行事や地域パトロールの連絡用として無線機を使用することができます。
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特長2
非常時は放送装置を通して避難誘導が可能
●非常時には施設内外のどこからでも無線機から放送装置を通して避難誘導の案内や指示などが素早くできます。
●無線機を携帯した職員も、建物からの避難や状況確認の移動をしながら放送ができます。
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特長3
災害時の自営通信手段として無線機をお勧め
●災害時に携帯電話や通信が不通の場合でも、無線機同士での連絡が可能です。
●放送装置の予備電源が稼働中は、無線機からの放送ができます。
運用イメージ
非常・業務放送設備(ラック型)+デジタル簡易無線機
非常・業務放送設備(壁掛型)+特定小電力無線機
■ 非常時には、無線機からインターフェースを経由して放送装置を起動。
■ 放送装置へ放送する際には、連絡用無線機器を放送アクセス用のチャンネルに切り替えて送話します。
■ デジタル簡易無線機から放送装置内蔵の定型メッセージを放送できます。
■ 連絡用無線機の台数は使用状況によって増やせます。一般通話用デジタル簡易無線機は、車載タイプも選択できます。
■ デジタル簡易無線機は特定小電力無線機の500倍の出力。より広範囲をサポート。デジタルなのでノイズの少ない明瞭な音声品質を実現します。
■ デジタル簡易無線機を利用するにあたっては、無線局の免許(開設申請)と電波利用料が必要です。特定小電力無線機の利用は免許不要です。
3 非常時の避難誘導メッセージをサイネージで伝える
消防庁は、「外国人来訪者や障害者等が利用する施設における災害情報の伝達及び避難誘導に関する ガイドライン」を策定、公表。本ガイドラインでは、デジタルサイネージやスマートフォンアプリ等の活用などによる避難誘導等の多言語化、文字等による視覚化、障害など施設利用者のさまざまな特性に応じた対応が示されています。消防庁では、本ガイドラインを駅・空港や競技場、旅館・ホテル等の関係施設に周知するとともに、各施設における取り組みを促しております。これを受け、当社では「多言語放送/サイネージ/情報配信」に加え、「監視カメラ連携」を実現する『避難誘導支援システム』をご提案いたします。
「外国人来訪者や障害者等が利用する施設における災害情報の伝達及び避難誘導に関するガイドライン」の主な内容
- デジタルサイネージやスマートフォンアプリ、フリップボード等の活用などによる災害情報や避難誘導に関する情報の多言語化・文字等による視覚化
- 障害など施設利用者の様々な特性に応じた避難誘導(避難の際のサポート等)
- 外国人来訪者や障害者等に配慮して避難誘導等に関する従業員等への教育・訓練の実施
(2018年3月29日 消防庁公表)
消防庁ホームページ外国人や難聴者向けに、非常時の情報を放送(音声)だけでなくサイネージ(映像)で伝える『避難誘導支援システム』。
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特長1
多言語放送多国語による音声メッセージ放送をします。
●3~4ヶ国語(日・英・中・韓)での放送を実現。
●非常用放送設備の多言語メッセージを起動し、自動的に館内への放送を行います。
●多言語放送ソフトウェアにより、オリジナルのメッセージ放送も可能です。
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特長2
サイネージ多言語によるメッセージで、緊急時における情報を表示します。
●放送と連動し、多言語による情報をサイネージへ表示。
●放送情報連動インターフェースから、サイネージシステムへ信号を送り、火災・地震・津波発生などの情報を表示させます。
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特長3
監視カメラ連携出火階のカメラ映像に自動的に切り替えます。
●統合監視システムとの連携を実現。
●放送情報連動インターフェースから、統合監視システムへ信号を送り、対象階のカメラの映像へ自動的に切り替え表示させます。
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特長4
情報配信配信システムによる情報配信の拡張性を備えます。
●放送情報連動インターフェースからの信号を利用して、配信システムへ信号を送り、アプリまたはメールによる情報を施設管理者へ配信する拡張性を備えます。