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社会インフラの老朽化問題~その現状と課題を解消するための取り組み~

社会インフラの老朽化問題

日本では豪雨や地震など、毎年のように災害が発生しています。こうした災害時の影響を最小限に抑えるためには、社会インフラの機能を維持させることが重要です。しかし昨今、その社会インフラの老朽化が、社会課題となっていることをご存じでしょうか。
社会インフラの老朽化が問題になっている背景として、その維持管理に必要な財源の不足、そして技術系職員の減少などが挙げられます。そこで国や自治体では、インフラ施設に不具合が生じる前に対策を行う「予防保全」などの取り組みが行われています。
本記事では社会インフラの老朽化問題について解説すると共に、具体的な対策や、その対策に用いられる技術などを詳しくご紹介します。

目次

  1. 1 - インフラの老朽化問題とは
  2. 2 - インフラ老朽化による事故例
  3. 広島県 砂防ダム決壊
  4. 和歌山県 水管橋崩落
  5. 東北・上越・北陸新幹線 架線装置破断
  6. 3 - インフラ施設が直面している課題
  7. 維持管理の財源不足
  8. 技術系職員の減少
  9. 4 - インフラ老朽化問題への対策
  10. 施設に不具合が生じる前に強靭化を行う「予防保全」
  11. 研修による人材育成の推進や新技術の活用促進
  12. 地域インフラ群再生戦略マネジメントによる「地域間連携」
  13. 5 - インフラ老朽化対策に役立つ技術
  14. ドローン / AIによる画像診断
  15. インフラ施設監視カメラシステム
  16. 6 - まとめ

1 - インフラの老朽化問題とは

インフラ施設は、私たちの生活や社会、経済を支える基盤とも言えるものです。そして、これらの社会インフラの老朽化が引き起こす事故や社会問題は、「インフラ老朽化問題」と呼ばれています。なお、インフラ施設には次のようなものが挙げられます。

道路
トンネル
上下水道
送電線
河川
ダム
砂防
海岸・港湾
鉄道
空港
病院
公園
公営住宅
官庁施設

こうしたインフラ施設の多くは、高度成長期以降に整備されました。インフラの耐用年数は一般的に約50年といわれており、今後、耐用年数を過ぎたインフラ施設が多くなると予測されます。2040年時点では、河川管理施設の約38%、港湾施設の約66%、道路橋の約75%が建設から50年以上を経過する見込みです。
社会インフラの老朽化は、インフラそのものの機能を損なうだけでなく、崩落や倒壊といった事故の原因にもなるため、適切に維持管理していく必要があります。しかし、多額の費用がかかることもあり、現状では十分な整備が行われていません。

インフラの老朽化問題とは
出典:国土交通省「社会資本の老朽化の現状と将来 - インフラメンテナンス情報」

2 - インフラ老朽化による事故例

社会インフラの老朽化を原因とした事故は、国内各地で起こっています。以下に、具体的な事故例を3つ取り上げます。

広島県 砂防ダム決壊

2018年7月に発生した西日本豪雨では、広島県の砂防ダムが決壊し、数多くの死者を出す事故となりました。砂防ダムの壁は幅50mにおよび、この事故は、そのほぼすべてなくなるという異例の大規模決壊となりました。
1947年に石積みで作られた砂防ダムは、すでに70年以上が経過していたため、老朽化の懸念から2020年の完成を予定し、コンクリートで新たな砂防ダムを建設中だったようです。しかし、2014年に広島土砂災害が発生し、その復旧に予算を割く必要が生じたことから、ダムの建設が遅れてしまっていたと言われています。
堤防や砂防ダムの復旧工事は、全2,523箇所中、99%にあたる2,505箇所がすでに完了しています(23年5月末時点)。

和歌山県 水管橋崩落

2021年6月、和歌山県和歌山市にある「紀の川」にかかる水道橋の一部で、腐食による破断が原因と見られる崩落が起こりました。その影響で、周辺地域では1週間もの断水となり、6万世帯・138,000人に影響が起きてしまいました。断水解消のために、和歌山市は水道橋に並走する橋を通行止めとし、水道橋を仮設することで対応しました。しかし、崩壊した水道橋の全面復旧までには、8ヶ月もの期間を要したとされています。

東北・上越・北陸新幹線 架線装置破断

2024年1月、東北・上越・北陸新幹線で架線装置が破断するという事故が起こりました。長時間にわたって運転を見合わせる事態となり、約12万人の旅客輸送に影響が生じました。破断した部品は38年が経過していたほか、490箇所にある同部品を調査したところ、取り換え基準として定めている30年を超えたものが約半数におよぶことが分かっています。

3 - インフラ施設が直面している課題

インフラ施設が直面している課題

多くのインフラ施設は、地方自治体(都道府県や市区町村)によって管理されていますが、次のような深刻な課題に直面しているのが実情です。

維持管理の財源不足

少子高齢化や人口減少が進む日本において、社会インフラの維持管理のために財源を増加させることは難しい状況です。社会インフラの維持管理費にあてられる財源は、1993年度の約11.5兆円をピークとして減少してきました。現在はピーク時に対して、約半分の予算で対応しています。そのため、財源を増加させるのではなく、できる限り維持管理における支出を抑えようという方向で検討されています。

技術系職員の減少

財源が不足する一方、その管理を担う地方自治体で、技術系職員が減少していることも課題となっています。たとえ財源不足が解消されても、作業に当たる技術系職員の数が十分でなければ維持管理は困難です。技術系職員が5名以下という市町村は全体の半数近くを占めており、施設管理者の技術力向上、そして業務の効率化に向けた対応が検討されています。

4 - インフラ老朽化問題への対策

前述したようなインフラ老朽化の課題に対して、具体的に取り組まれている対策をご紹介します。

施設に不具合が生じる前に強靭化を行う「予防保全」

これまでは、インフラ施設に不具合が生じてから修繕等の対策を行う、「事後保全」を基本として対応が行われてきました。しかし、事後保全では修繕にかかる費用が多額になるほか、復旧するまでに時間がかかり、その間はインフラが使用できなくなってしまいます。そこで、昨今は不具合が生じる前から対策を行う、「予防保全」への転換が取り組まれています。これは、維持管理や更新に必要な費用を縮減することが目的です。
国土交通省は2014年5月に、「インフラ長寿命化計画」をとりまとめました。これには、インフラのライフサイクルの延長を目的とした、さまざまな行動計画が含まれています。さらに2021年6月、2021年度~2025年度までを期間とした、第2次のインフラ長寿命化計画が策定されました。この中ではライフサイクルの延長はもちろん、インフラを維持するための継続的な取り組みが盛り込まれています。
また、自治体内の財源以外から維持管理費を捻出するための仕組みづくりも行われています。例えば、インフラ施設の多目的利用を推進することで民間投資を呼び込み、その資金を維持管理費に充当するというものです。

研修による人材育成の推進や新技術の活用促進

施設管理者の技術力向上、そして業務の効率化を目的として、次のような取り組みが進められています。
研修による人材育成新技術の活用データベースの整備 など
具体的には2021年4月、国土交通省が「インフラDX 総合推進室」を発足させました。このインフラDX総合推進室では、国土交通省と国土技術政策総合研究所などの研究所、地方整備局などが足並みを揃え、インフラDXを推進すべく環境・実験フィールドの整備や、新技術の開発・導入促進、人材育成などを行っています。
また、インフラ施設の維持管理には、新しい人材の確保も必要です。そのために官民連携でSPC(特別目的会社)を設立し、その運営を担うことで、自治体職員だけでなく民間企業の専門人材と連携推進を図るといった取り組みも行われています。

地域インフラ群再生戦略マネジメントによる「地域間連携」

財源や技術系職員の減少という課題へのアプローチとして、「地域インフラ群再生戦略マネジメント(以下、群マネ)」という考え方が注目されています。これは自治体が連携してインフラを維持管理する手法です。道路、上下水道、河川、公園といったインフラを関連性の高さに応じて「群」にわけ、群ごとに維持管理を行っていく、というのが基本的な考え方になります。
例えば、市町村をまたがる川がある場合、一般的には上流と下流で自治体が変われば、管理者も変わります。しかし、群マネでは、上流も下流も「河川」という一つの群として捉えるため、同じ管理者が管理します。このように自治体の壁を取り払うことによって、限られた財源や人材を流動的に活用できるようになり、より効率的なインフラの維持管理が可能となります。

5 - インフラ老朽化対策に役立つ技術

インフラ老朽化対策に役立つ技術

先にご紹介したように、社会インフラが老朽化すれば、施設自体だけでなく周囲も巻き込んだ大きな事故に繋がってしまう可能性があります。そのため、予防保全によるインフラ施設の延命化・長寿命化や、IT技術を駆使した業務効率化によるインフラ施設の適切な維持管理が重要です。その際に活用できる、代表的なテクノロジーを以下にご紹介します。

ドローン / AIによる画像診断

ドローン技術とAIによる画像診断は、インフラ施設が老朽化していないかどうかの点検に役立ちます。
高所や閉所など、人間では近づくのが難しい場所でもドローンなら安全に点検が可能です。電柱や鉄塔、トンネル内、高い建物の外壁など、さまざまなインフラ点検で活躍しています。現場の労働力不足を補えるほか、高所作業でも足場を組む必要がないなど、作業時間およびコスト削減にもつながります。
また、AIによる画像診断は、コンクリートのひび割れや道路舗装の異常などの点検に活用され始めています。デジタルカメラでコンクリートを撮影する工程までは、従来の点検と変わりません。しかし、一度デジタルカメラでコンクリートを撮影してしまえば、その後は画像をシステムに読み込ませるだけで、AIがひび割れた箇所を検出してくれます。そのため、点検時間を大幅に削減することができ、点検作業を効率化させられます。
これらドローンとAIによる画像診断を組み合わせれば、これまで困難だった場所でもスムーズに点検でき、老朽化した箇所の早期発見に役立ちます。

インフラ施設監視カメラシステム

インフラ施設監視カメラシステム

前述したドローン技術は、空中や水中を移動しながら映像をライブで確認したり、解析したりするために有効な手段となります。これに対して、監視カメラシステムは定点で映像をライブで確認、および記録するために活用されるものです。定点で監視することにより、長期間の内に起きる変化や差分を発見することができ、安全かつ安定したインフラ施設の維持に、映像監視システムは欠かせないテクノロジーと言えます。
特に電力や鉄道、水道といったインフラは、広い地域に渡って設備を運用・管理しなくてはならず、複数の施設を集中監視・制御するシステムを構築することが求められます。
「インフラ施設監視カメラシステム」は広域な施設、あるいは複数施設でも一元的に統合管理が可能。インターホン連携によって遠隔で監視や受付対応も行えるほか、カメラによる映像監視と各種センサーやデバイスを連携させることで、センサーの検知情報とカメラ映像をまとめて確認できます。これにより、監視業務の効率化、セキュリティや安全対策の強化が可能です。

詳しくはこちらをご覧ください。

インフラ施設監視カメラシステム

6 - まとめ

インフラ施設の老朽化をきっかけとした顕在的な事故以外にも、老朽化が及ぼす潜在的な問題は数多く発生しています。少子高齢化の進展により、とくに過疎化が進む地方では一人当たりのインフラの維持費が高くなり、現状のまま持続させることが困難です。利用者が少なすぎて採算が合わず、廃線となる鉄道もあります。その代替として線路のあったところにバスを走らせたり、複数の自治体の路線バスを一本化して利用者のニーズに合わせて柔軟に走らせたり、さまざまな対策によって地域生活の移動を支えるインフラをなんとか維持しているのが現状です。
延命化・長寿命化は、インフラの安定稼働をハード面から支える対策といえます。将来にわたり長くインフラ施設を活用していくためには、最新のIT技術を駆使して維持管理費を抑え、現在の状況下でも運営できる状態に整備することが重要です。


編集:株式会社JVCケンウッド・公共産業システム マーケティング担当(2024年4月12日)

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