コラム
【2024年施行】トラックドライバーの労働時間規制と業界の対応を紹介
2025年5月26日

物流は日本の経済活動を支える重要なライフラインです。その物流の最前線で活躍するトラックドライバーの労働環境に大きな変化が訪れています。2024年4月からトラックドライバーに対する労働時間規制が本格的に適用され、運送業界は新たな時代に突入しました。
本記事では、トラックドライバーの労働時間規制の詳細と背景、そして運送会社が取り組むべき対策について解説します。運行管理や労務管理に携わる方々にとって、法令遵守と業務効率化の両立に役立つ情報となっています。
目次
- 1 - 2024年4月からの労働時間規制とは?
- トラックドライバーの労働時間に対する新たな基準
- 規制強化の背景
- 新規制の対象者
- 違反した場合の罰則と影響
- 労働時間規制がもたらすメリット・デメリット
- 2 - 企業に求められる具体的な対策
- 労働時間管理システムの導入
- シフト勤務の最適化
- 事前研修と新規採用の強化
- 福利厚生の充実とモチベーションアップ
- 3 - トラックドライバーの声を反映した労働環境改善
- アンケート調査を通じた従業員の意見収集
- ドライバーの健康管理に関する取り組み
- 仕事とプライベートの両立を支援する制度
- 労使コミュニケーションの強化
- 4 - 成功企業の具体的な取り組み事例
- 福山通運株式会社:中継輸送による拘束時間削減
- 富士運輸株式会社:ドライバー交替による長距離輸送の分担
- 5 - まとめ
1 - 2024年4月からの労働時間規制とは?

2024年4月、働き方改革関連法の一環として、トラックドライバーに対する時間外労働の上限規制が適用されました。同時に、「自動車運転者の労働時間等の改善のための基準」(改善基準告示)も改正され、ドライバーの労働環境は大きく変わることになりました。この規制は、ドライバーの健康確保と安全な運行の実現を目指すものです。
トラックドライバーの労働時間に対する新たな基準
新たな労働時間規制では、トラックドライバーの時間外労働に年間960時間という上限が設けられました。これは一般の業種に適用される年間720時間よりも緩和されているものの、これまで事実上無制限だった運送業界にとっては大きな変化です。
時間外労働の上限規制に加え、改善基準告示の主な改正点は以下の通りです。
項目 | 改正前 | 改正後(2024年4月〜) |
---|---|---|
1年の拘束時間 | 3,516時間以内 | 原則:3,300時間以内 例外:3,400時間以内(労使協定がある場合) |
1か月の拘束時間 | 293時間以内 | 284時間以内 |
1日の拘束時間 | 原則13時間以内 最大16時間(週2回まで) |
原則13時間以内 最大15時間(週2回まで) |
休息期間 | 継続8時間以上 | 継続11時間以上(やむを得ない場合9時間) |
運転時間 | 2日平均9時間以内 2週平均44時間以内 |
変更なし |
この改正により、長時間にわたる連続勤務が制限され、十分な休息時間の確保が義務付けられることになりました。これはドライバーの過労防止と健康維持に大きく寄与する変更です。
規制強化の背景
この規制強化の背景には、トラックドライバーの過酷な労働環境があります。厚生労働省の調査によれば、令和5年度の脳・心臓疾患による労災支給決定件数のうち、運輸業・郵便業が全業種中で最多となる75件(うち死亡件数は20件)を記録しています。深刻な長時間労働が健康被害を引き起こしている実態が明らかになりました。
また、トラックドライバーの高齢化と人手不足も深刻です。全日本トラック協会の調査では、トラック運転者の有効求人倍率は一般職業と比較して高く推移しており、若手ドライバーの確保が困難な状況が続いています。
こうした状況を改善し、トラックドライバーの働き方を根本から見直すことが、今回の規制強化の目的です。
新規制の対象者
新規制の対象となるのは、「四輪以上の自動車の運転の業務に主として従事する者」すなわち、トラック、バス、タクシー、ハイヤーなどの運転者です。トラックドライバーに関しては、物品を運搬するために自動車を運転する時間が労働時間の半分を超え、かつ年間総労働時間の半分を超える場合が対象となります。
違反した場合の罰則と影響
改善基準告示自体は法律ではなく、違反しても直接的な罰則はありません。しかし、この基準に違反することは、労働基準法や労働安全衛生法の違反につながる可能性があります。
労働基準監督署の監査で違反が発覚した場合、次のような措置が取られる可能性があります。
-
- 1. 是正勧告や指導
- 2. 行政処分(車両停止処分など)
- 3. 労働基準法違反としての罰則(6ヶ月以下の懲役または30万円以下の罰金)
また、企業のコンプライアンス違反は社会的信用の低下につながり、荷主からの信頼を失う可能性もあります。特に安全性を重視する大手荷主企業からの契約解除リスクもあるため、規制遵守は企業の存続にも関わる重要な問題です。
さらに、過重労働によるドライバーの健康被害は、深刻な場合に労災認定やさらには過労死などの重大な事態を招く可能性があります。企業としても、従業員の健康と安全を守る責任があります。
労働時間規制がもたらすメリット・デメリット
新たな労働時間規制には、メリットとデメリットの両面があります。
- メリット
-
- 1. ドライバーの健康と安全の確保
- 2. 過労によるヒューマンエラーや事故の減少
- 3. ワークライフバランスの改善によるドライバーの定着率向上
- 4. 業界全体のイメージ向上による人材確保の可能性
- デメリット
-
- 1. 短期的な輸送能力の低下
- 2. 運送コストの上昇
- 3. 配送スケジュールの再構築が必要
- 4. システム導入や管理体制整備などの初期投資
運送業界だけでなく、荷主企業を含めたサプライチェーン全体で対応策を講じることが、この規制によるデメリットを最小限に抑え、メリットを最大化するポイントとなります。
2 - 企業に求められる具体的な対策

労働時間規制に対応するため、企業は具体的にどのような対策を講じるべきでしょうか。運送会社だけでなく、荷主企業も含めた取り組みが重要です。
労働時間管理システムの導入
まず重要なのは、正確な労働時間管理です。デジタルタコグラフ(デジタコ)に加えて勤怠管理システム等のシステムを導入・連携することで、データ精度の高く入力作業の簡略化することが可能となり、より効率的に労働管理を行うことができます。また、最新の勤怠管理システムには次のような機能があります。
-
- ・スマートフォンやタブレットからの打刻機能
- ・GPS位置情報と連動した打刻の真正性確保
- ・拘束時間や休息期間の自動計算
- ・上限時間接近時のアラート機能
- ・勤務間インターバル管理機能
- ・労務データの分析・可視化
特に有効なのは、クラウド型の勤怠管理システムです。ドライバーが移動先からリアルタイムに打刻できるため、未打刻や申請忘れを防止できます。また、管理者側も手間をかけずに正確な拘束時間を把握でき、デジタコから出勤簿への転記作業も不要になります。
シフト勤務の最適化
勤務シフトの最適化も重要な対策の一つです。従来のような長時間勤務を前提としたシフトではなく、法令遵守とドライバーの負担軽減を考慮した新たなシフト設計が求められています。
効果的な手法として、まず長距離輸送を複数のドライバーで中継する「分割シフト」があります。また、複数の荷主の貨物を1台のトラックで効率的に運ぶ「混載便」を活用することで、積載効率を高め、運用の効率化につなげます。
さらに、渋滞の少ない時間帯へのシフト調整や荷主との配送時間調整を行い、無駄な待機時間を削減することも重要です。加えて、法令に則った継続11時間以上の休息期間を確実に確保するため、シフト間に十分な間隔を設けるよう設計します。
事前研修と新規採用の強化
新たな労働時間規制に対応するためには、現場のドライバーや管理者への教育や研修が欠かせません。まず、「荷待ち時間も労働時間であること」や「休息期間の確保が必須」という基本ルールについて、全従業員に徹底的な法令遵守の研修を実施します。
また、運行管理者や配車担当者には、新基準に準拠した配車計画の立案方法や、労働時間超過のリスクを回避する方法を具体的に指導します。勤怠管理システムについても、荷待ち時間や荷役作業時間を正確に記録するため、操作方法をしっかりと研修します。
さらに、労働時間短縮に伴うドライバー不足に対応すべく、若手や中高年層向けに柔軟な勤務体系を整備し、採用活動を強化します。ベテランドライバーのノウハウを若手に共有する場も設け、効率的で働きやすい環境づくりにつなげます。
これらの取り組みは法令遵守を超えて、人材定着や職場の魅力向上に大きく貢献します。
福利厚生の充実とモチベーションアップ
労働時間短縮に伴い懸念される収入減少への対策として、福利厚生の充実も重要です。時間当たりの生産性を上げることで、労働時間が減っても収入が維持できる仕組みづくりが必要です。
具体的な取り組み例として下記があります。
- 1. 賃金体系の見直し
- 時間給や歩合給の見直しにより、短時間でも適正な収入を確保できる給与体系を整備します。単純な時間給ではなく、効率性や安全性を評価する成果報酬型の要素を取り入れることも効果的です。
- 2. インセンティブ制度の導入
- 安全運転や燃費向上、荷物の丁寧な取り扱いなど、質の高い仕事に対してインセンティブを付与する制度を設けます。これにより、短時間でも質の高いサービス提供を促進できます。
- 3. 健康管理プログラムの提供
- 健康診断の充実や、フィットネスクラブの法人契約、栄養指導など、ドライバーの健康を支援するプログラムを提供します。健康なドライバーは生産性も高く、長期的に安定した勤務が期待できます。
- 4. 休暇制度の拡充
- 有給休暇の取得促進や、リフレッシュ休暇の新設など、休暇制度を充実させます。適切な休息は疲労回復につながり、短時間でも効率的な業務遂行が可能になります。
- 5. キャリアパスの明確化
- ドライバーからフリート管理者や運行管理者へのキャリアアップ制度を整備し、長期的な展望を持って働ける環境を整えます。
これらの取り組みにより、ドライバーのモチベーション向上と定着率の改善が期待できます。労働時間が短縮されても、質の高いサービスが提供できる体制づくりが重要です。
3 - トラックドライバーの声を反映した労働環境改善

労働時間規制に適切に対応するためには、実際に現場で働くドライバーの声を把握し、現実的な改善策を講じることが重要です。
アンケート調査を通じた従業員の意見収集
まず重要なのは、現場の実態を正確に把握することです。ドライバーへのアンケート調査を通じて、次のような情報を収集します。
カテゴリー | 質問項目例 |
---|---|
労働時間 | 1日の平均拘束時間、最も長い拘束時間、荷待ち時間の頻度と長さ |
休息・休日 | 休息時間の十分さ、連続勤務日数、休日取得の満足度 |
身体的負担 | 最も疲労を感じる業務、健康面での不安や症状 |
精神的負担 | ストレスを感じる場面、モチベーション低下の要因 |
改善提案 | 労働時間短縮のアイデア、荷主対応の改善案、設備投資の要望 |
アンケート結果を分析することで、会社全体としての課題が明確になり、優先的に取り組むべき改善ポイントを特定できます。また、定期的にアンケートを実施することで、改善策の効果測定も可能です。
ドライバーの健康管理に関する取り組み
長時間労働の規制と並行して、ドライバーの健康管理にも積極的に取り組むことが重要です。健康なドライバーは生産性も高く、短時間でも効率的な業務遂行が可能だからです。
効果的な健康管理プログラム例:
- 1. 定期健康診断の充実
- 一般的な健康診断に加え、運転業務に特化した検査項目(視力・聴力検査、睡眠時無呼吸症候群検査など)を追加し、職業特性に合わせた健康管理を行います。
- 2. 専門医によるケア
- 腰痛や肩こりなど、ドライバーに多い症状に対して、産業医や専門医によるケア体制を整備します。定期的な相談会や、症状がある場合の受診サポートも効果的です。
- 3. 食生活改善サポート
- 不規則な勤務の中でも健康的な食事ができるよう、栄養士による食事指導や、健康的な弁当の提供などを行います。コンビニ食に頼りがちなドライバーの食生活改善は、健康維持に大きく寄与します。
- 4. 運動習慣の促進
- 運転による長時間の着座状態は、運動不足を招きがちです。簡単にできるストレッチ体操の指導や、フィットネスクラブの利用補助などを通じて、適度な運動習慣を促進します。
- 5. 睡眠の質向上サポート
- 良質な睡眠は安全運転の基本です。睡眠環境改善のためのセミナーや、休息施設の整備など、ドライバーの睡眠の質向上を支援します。
これらの健康管理プログラムは、ドライバーの健康維持に役立つだけでなく、疾病による休業の減少や事故リスクの低減につながり、会社にとっても大きなメリットをもたらします。
仕事とプライベートの両立を支援する制度
ワークライフバランスの実現は、ドライバーの定着率向上と人材確保に直結します。労働時間規制に合わせて、プライベートと仕事の両立を支援する制度の整備も重要です。
効果的な支援制度の例:
- 1. フレキシブルな勤務体系
- 個人の生活スタイルに合わせて選択できる勤務形態(日勤専従、夜間専従、隔日勤務など)を用意し、多様な働き方を可能にします。
- 2. 希望休制度の充実
- 家族の行事や個人的な予定に合わせて休日を取得できる希望休制度を充実させ、計画的な休暇取得を促進します。
- 3. 短時間勤務制度
- 育児や介護などの事情がある社員向けに、短時間勤務制度を整備します。配送ルートを限定するなど、短時間でも効率的に働ける環境を整えます。
- 4. 福利厚生施設の充実
- 社員寮や保養施設の整備、家族向けイベントの開催など、プライベートの充実をサポートする福利厚生を充実させます。
- 5. キャリア形成支援
- 長期的なキャリア形成を見据えた研修制度や資格取得支援を行い、将来への展望を持って働ける環境を整えます。
これらの制度により、ドライバーは仕事と私生活のバランスを取りやすくなり、職業満足度の向上につながります。また、「ドライバーは家庭を顧みる余裕がない」といったネガティブなイメージの払拭にも貢献し、新たな人材確保にもプラスとなります。
労使コミュニケーションの強化
労働時間規制への対応を円滑に進めるには、経営層と現場ドライバーの緊密なコミュニケーションが不可欠です。具体的な取り組みとして、経営層とドライバーが直接対話できる定期的な意見交換会を設け、小規模なグループ討議形式で率直な意見を交わします。
また、現場リーダーを育成し、ドライバーの声を集約して経営層に伝える仕組みをつくることも重要です。これらの取り組みは、企業文化の醸成や組織力向上にもつながり、労使間で協力して問題解決を進める基盤となります。
4 - 成功企業の具体的な取り組み事例
実際に労働時間短縮に成功した運送会社の事例から、効果的な対策を学ぶことも重要です。ここでは具体的な取り組み事例を紹介します。
福山通運株式会社:中継輸送による拘束時間削減
福山通運は、東京-大阪間など長距離輸送に「中継輸送方式」を積極的に導入しています。この方式では、例えば東京-大阪間の輸送を東京-名古屋間と名古屋-大阪間の2つの区間に分割し、中継地点の名古屋でドライバーと車両を交代します。
この取り組みにより、ドライバー1人あたりの拘束時間が大幅に削減され、ドライバーが毎日自宅に帰れる勤務体系が実現しています。
富士運輸株式会社:ドライバー交替による長距離輸送の分担
富士運輸株式会社では、関西圏と関東圏を結ぶ幹線輸送で柔軟な「中継輸送」を導入し、大きな成果をあげています。特に金曜日に関西から関東へ向かう輸送について、静岡県を中継地点に設定しドライバーを交替させることで、従来の「翌日空車で戻る」という非効率的な運行を解消しました。
この取り組みの特徴は、中継輸送を毎日実施するという従来の固定概念を見直し、必要な曜日のみ行うことで、コスト増を最小限に抑えた点にあります。その結果、ドライバーの拘束時間が1日分削減され、特に土曜日の勤務がなくなったことでワークライフバランスが大幅に向上しました。段階的な中継輸送導入の成功事例として、業界内外から注目されています。
5 - まとめ
2024年4月からトラックドライバーに適用された時間外労働の上限規制と改正改善基準告示は、物流業界に大きな変革をもたらしています。年間960時間の時間外労働上限や、拘束時間・休息期間の厳格化は、ドライバーの健康と安全を守るための重要な一歩です。
未来を見据えれば、この規制は単なる「制約」ではなく、持続可能な物流システムを構築する「機会」と捉えるべきでしょう。技術革新やサステナビリティの観点を取り入れた企業文化の変革により、トラック運送業界は今後も日本の経済と社会を支える重要な役割を果たし続けることができるはずです。
編集:株式会社JVCケンウッド・公共産業システム マーケティング担当(2025年5月)
<参考資料・出典>
自動車運転者の労働時間等の改善のための基準(改善基準告示)|厚生労働省
令和5年度「過労死等の労災補償状況」を公表します|厚生労働省
知っていますか?物流の2024年問題 | 全日本トラック協会 | Japan Trucking Association
時間外労働の上限規制 | 働き方改革特設サイト | 厚生労働省
自動車:中継輸送の取組事例集~成功事例に学ぶ中継輸送成功の秘訣~ - 国土交通省
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